プロローグ(第198章〜第199章、第1章より)
幼いめぐの決意〔めぐ8歳〕
 美木は自分が16歳になったら知らない誰か、それも恐ろしい家系の人と結婚させられることを知り絶望します。

 「バカみたいね私ったら…8歳にもなって物語のお姫様のつもりでいたのよ。」

この時めぐは詳しい事情こそ分からないものの、美木の表情と言葉からその絶望を察し自分自身が女であるにもかかわらず男として美木を守ることを決心します。

 「じゃ、俺が王子様になる! 俺が君を守ってあげる!!」
 「無理だと思ったときから何もできなくなるんだ! なると言ったらなる!! 絶対なる!!」

全ての物語はここから始まります。

源造・魔本との遭遇〔めぐ9歳
 その決断以降男として生きてきためぐが幼い頃の源造と出会います。この段階でめぐは既に美木を守るという確固たる信念を持っており、美木を守ろうとするめぐの行動に源造は圧倒されます。

 「俺は前を向いてる。見ているものがある。」

この時、源造は心の底では完全に敗北感を感じているのですが、素直に負けを認められる源造ではありませんでした(それがまた源造らしさではあるのですが・・・)。その源造の意地により、美木を守るためのめぐの行動が、結果的にめぐ自身が源造によって守られ、源造が傷を負うという結果になってしまいました。この時、源造が最後の意地で放った一言がめぐに大きな衝撃を与えます。

 「テメーが女だから助けたんだ。これが男ってもんなんだよ!
  テメーは女なんだよ、分かったかよ!」

 もちろん、この言葉自体は負け惜しみ以外なにものでもないのですが、めぐはこの言葉と自分が守られ源造に傷を負わせたという結果から、自分が女であるという現実を思い知らされることになります。8歳時の決断から分かるようにめぐは「女を守るのは男」と思い込んでおり、だからこそめぐは美木を守るために男になろうとしたのでした。しかし、その決断以降めぐは男として生きてきたつもりでしたが、現実的には自分が女であるという意識はやはり心のどこかに残っていたのです。めぐにとって何よりショックだったのは、源造の一言そのものではなく、その一言を通して美木を守るために男になると決断しておきながら男になりきれていない自分を知ったこと、そして「女を守るのは男」と思い込んでいるめぐはこのままでは美木を守れないと感じたことなのです。それゆえめぐは涙を流したわけです。そして、その涙、つまり美木を守りたいという純粋な想いが魔本に届き、小悪魔が現れるのです。

 「一つだけ、どんな願いも叶えてやろう」

 「男に… 男にしてくれ!!」

 しかし、魔本は願いそのものをタダで叶えるのではありません。その人の望みを叶えるためのきっかけを与えるだけなのです。めぐの本当の望みは美木を守れるような男になることであり、そのことを知っている小悪魔は、めぐと美木に「めぐが元々男だった」という偽りの記憶を与えるというきっかけだけを与えるのです。これにより、めぐは心のどこかにあった自分が現実的には女であるという意識が無意識下に封印されます。以降めぐと美木は、めぐが元々男だったという偽りの記憶(もちろん本人達にとっては正しい記憶)と共に生きていくことになります。

 一方、めぐの涙に気付いた源造は、自分の一言がめぐを傷つけたと勘違いし、そのことに対して罪悪感を背負って生きていくことになります。めぐの信念の強さに圧倒された上に、自分のつまらない意地でめぐを傷つけてしまったと思い込んでしまった幼い源造は、自分自身に失望し、その罪悪感を克服できるほどの強さもなく、完全にグレてしまうのですが、この頃源造はめぐが川原に投げ捨ててしまった魔本をたまたま発見し持ち帰ります。数年後にめぐと再会することは知る由もなく・・・。

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