さて、この作品はこのように優れたテーマ性を持っているわけですが、それを展開するストーリー構成もかなり計算・工夫されており非常に良くできています。その要因は基本設定とストーリーの骨格がしっかりしているからでしょう。一見、魔本によって女にされたというなんでもありの設定に思えますが、魔本の能力はきっちり設定されており実はかなり制限があるわけです。そして、それが少しずつ明かされていくわけですが、その展開もかなり計算されており、これは骨格がしっかりしているおかげでしょう。おそらく西森氏は作品の基本構造となる骨格部分に関しては連載前にすでにおおよそ完成させていて、連載しながらそのポイントポイントを結び付けつつ肉付けするという感じでストーリーを構成していったと思われます。 また、このような将来的なビジョンばかりでなく、ここまで描いてきた内容が細かく把握された上でストーリーが展開されています。例えば、8巻p13にめぐの「美木が言ってた事だ。言葉は発すると力が、魂が、籠る。」というセリフがあるのですが、これはかなり前にあった5巻p46の美木のセリフを受けてのものです。作品全体における伏線となっているような重要なセリフならまだしも、これは作品の本質とは全く関係ない部分の何気ないセリフの一つでしかありません。「よくこんなセリフまでチェックしているなぁ」と感心したものです(ちなみに私は何度読み返してもなかなかこのセリフを見つけることができませんでした^^;)。作者にこういった細かいところを把握する余裕があるのは、骨格がしっかりしているおかげとも言えるでしょう。
このように細かいセリフまでかなり綿密に作られていますから、何度も読み返して初めてこのセリフがこういうことだったのかと気付かされることがしばしばあり、この辺りはファイブスター物語(日本一難解な設定で、何度も読み返すことが必須の漫画)を彷彿とさせます。ただ、この作品がファイブスター物語と違うところは、一回読んだだけでストーリを大まかに理解できることにあります。つまり、普通に読んでも楽しめ、じっくり読むとさらに楽しめるという作りになっているわけです。実際、私はこの作品を考察するにあたって、何度もこの作品を読み返したのですが、何気なくスルーしていたセリフに込められた意味をしばしば再考させられるなど、当初想定していたよりもはるかに膨大な量の考察になってしまい、噛めば噛むほど味が出るとはまさにこのことだ、と実感させられました。
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