My View of A Cheeky Angel 〜ネタばれなし〜
テーマ性
 無理だと思ったときから何もできなくなるんだ!
 なると言ったらなる!! 絶対なる!!

 幼いめぐのこの言葉こそがこの作品の核です。この作品は、主人公天使恵が元男だったという設定に加えて「男とは何か」を全面に出したストーリーということもあり、「男とは何か」をメインテーマに据えた作品と思われがちですが、それだけではこの作品は語りきれません。この作品は、そういった「男とは何か」を描くことを通して、自己のあるべき姿や信念とは何かを最終的に表現しようとしているわけです。そういう意味では、実は『今日から俺は!!』と限りなく似たようなテーマなわけです。

 こういったことはミクロな視点のみでこの作品を追いかけてもなかなか見えてきませんが、作品全体の構造を捉え、それを意識した上で細部を見ると、作品全体にこのテーマが散りばめられていることに気付きます。例えば、めぐ団に立ちふさがる障害、岳山と柳沢らは徹底的にめぐたちと正反対の思考回路を持つ者として描かれています。彼らは絶えず他者に映る自己像、柳沢的に言うと「役割」を意識しており、彼らの信念は周囲の状況に依存した不安定なもろいものなのです。一方で、めぐたちの信念は岳山らとは違って、自分の内側から生じるものを出発点としています。それゆえ、周囲に依存する相対的なものではない絶対的な、確固たるものなのです。

設定・ストーリー構成
 さて、この作品はこのように優れたテーマ性を持っているわけですが、それを展開するストーリー構成もかなり計算・工夫されており非常に良くできています。その要因は基本設定とストーリーの骨格がしっかりしているからでしょう。一見、魔本によって女にされたというなんでもありの設定に思えますが、魔本の能力はきっちり設定されており実はかなり制限があるわけです。そして、それが少しずつ明かされていくわけですが、その展開もかなり計算されており、これは骨格がしっかりしているおかげでしょう。おそらく西森氏は作品の基本構造となる骨格部分に関しては連載前にすでにおおよそ完成させていて、連載しながらそのポイントポイントを結び付けつつ肉付けするという感じでストーリーを構成していったと思われます。

 また、このような将来的なビジョンばかりでなく、ここまで描いてきた内容が細かく把握された上でストーリーが展開されています。例えば、8巻p13にめぐの「美木が言ってた事だ。言葉は発すると力が、魂が、籠る。」というセリフがあるのですが、これはかなり前にあった5巻p46の美木のセリフを受けてのものです。作品全体における伏線となっているような重要なセリフならまだしも、これは作品の本質とは全く関係ない部分の何気ないセリフの一つでしかありません。「よくこんなセリフまでチェックしているなぁ」と感心したものです(ちなみに私は何度読み返してもなかなかこのセリフを見つけることができませんでした^^;)。作者にこういった細かいところを把握する余裕があるのは、骨格がしっかりしているおかげとも言えるでしょう。

 このように細かいセリフまでかなり綿密に作られていますから、何度も読み返して初めてこのセリフがこういうことだったのかと気付かされることがしばしばあり、この辺りはファイブスター物語(日本一難解な設定で、何度も読み返すことが必須の漫画)を彷彿とさせます。ただ、この作品がファイブスター物語と違うところは、一回読んだだけでストーリを大まかに理解できることにあります。つまり、普通に読んでも楽しめ、じっくり読むとさらに楽しめるという作りになっているわけです。実際、私はこの作品を考察するにあたって、何度もこの作品を読み返したのですが、何気なくスルーしていたセリフに込められた意味をしばしば再考させられるなど、当初想定していたよりもはるかに膨大な量の考察になってしまい、噛めば噛むほど味が出るとはまさにこのことだ、と実感させられました。

魅せる話
 しかし、いかにテーマと設定・ストーリー構成等がしっかりしていても、話自体が面白くなければ作品としての価値は大幅に下がります。そして、得てしてこのように細部にわたって計算された作品は逆にそのテーマと設定に縛られて、退屈な話になりがちです。実際、この作品は純粋な面白さとしては『今日から俺は!!』に比べるとかなり劣っていると私は思っています(特に序盤の退屈さなんかは・・・^^;)。しかし、中盤以降の怒涛の展開には目を見張るものがあります。この要因は、純粋な話自体の面白さというよりは、テーマとストーリーが融合して生じるエネルギーにあるのではないのかと私は思います。つまり、「信念とは何か」というテーマを登場人物がストーリーを通して体現しようとするところから、登場人物のハートが伝わってきて、そこに単純な面白さよりも1次元上の面白さを感じるのです。

 もう一つ忘れてはならないことがあります。西森氏といえばギャグです。上にも書いたように中盤以降はかなり熱い展開なのですが、このままでは重厚すぎる(人によっては暑苦しい)という問題があります。西森氏のギャグセンスがその展開の潤滑油として効いています。非常にシリアスな展開の中に唐突に挿入されるギャグは、一つ間違えるとそのシリアスさを損なわせかねないわけですが、見事に調和されており読者に違和感を与えません。この辺は『今日から俺は!!』の良い部分を引き継いでいると言えるでしょう。

完成度の高さ
 このようにテーマ性とストーリー構成が高いレベルで融合され、それを読者に見せることまでしっかり意識されたシナリオ。序盤の退屈さ、終盤の詰め込みすぎなど惜しい部分もありますが、それを補ってあまりある完成度の高さだと私は思います。この作品の完成度に対する作者の自信は、最後の

 please read from the begining once again.

からもうかがえます。作品設定に縛られるあまり、ジェンダーの立場からしかこの作品を見られない人はちょっともったいないんじゃないかなぁ・・・。

 以降は完全なネタばれ考察になります。『天使な小生意気』未読者の方はご注意を。

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